フィリップ・マーロウを日本人が演じるなら

 レイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ=長いお別れ」を戦後間もない日本を舞台に翻案した5回シリーズが、NHKで放映されている。主人公のフィリップ・マーロウ浅野忠信。うちの奥さんは浅野君のマーロウがけっこう気に入っているようだが、どんなもんだろうか。原作の設定が42歳なので、年齢的な違和感はないけどね。これまでの映画化の例を見てみよう。

 マーロウ役でまず頭に浮かんでくるのは、ハワード・ホークス監督「三つ数えろ」のハンフリー・ボガート。まず背が低い(一説によると173センチ)ので、大男でタフというマーロウ像にはちょっと違和感がある。「さらば愛しき女よ」のロバート・ミッチャムにいたってはもう60歳間近になっていたので、中年前期というかもう老年初期に差し掛かっていた。ミッチャムは素晴らしい役者とはいえ、年金支給が視野に入ってきたマーロウっていうのも興ざめだよね。チャンドラー本人はケイリー・グラントをイメージしていたらしいけど、やらせてみたら意外といいのかな。

 その点、ロバート・アルトマン監督「ロング・グッドバイ」のエリオット・グールドは、どんな時でも減らず口をたたくひねくれ者だけど、友情には厚く感傷的なマーロウ像を好演していて、一番気に入っている。日本人なら松田優作が昔TVシリーズの「探偵物語」で”工藤ちゃん”を演じていたのを思い出すけど、優作兄ィではちょいとハードすぎる。いまなら阿部寛とかになるんだろうか。

 でも僕が見てみたいのは何といっても佐分利信のマーロウですね。あの地獄の底から響いてくるような声で「おれはロマンチックな人間なんだ」、「警官にさよならを言う方法はまだ見つかっていない」ってキメキメにキメたセリフを吐いてほしい。もちろん監督は巨匠小津安二郎、舞台は北鎌倉で。でもヒロインは誰にすればいいんだろうか。